税務調査運用に関して法令化され、10月から一部試験運用されていますが、平成25年1月より本格的に適用が開始されます。
さて、税務調査運用に関して法令化されたことにより、納税者にとって注意すべき点はどこにあるのでしょうか。第2回目は「帳簿書類等の提示、提出について」です。
第2回目:「帳簿書類等の提示、提出について」
実地調査の際に、次の言葉を調査官から言われた経験のある方はいらっしゃいませんか?
「○年分の帳簿書類を預かりたいのですが…。」
その時にどうおこたえしましたか?
「いいですよ。」
「検査する、としか規定されていない。預かってもいいとはどこにも規定されてないから駄目だ。」
「職業上の守秘義務が課されているから駄目だ。」
「個人情報保護の問題で駄目だ。」
「私物だから関係ないだろ。」
など、いろいろな答弁が予想されます。
もともと税法についての質問検査権は、各税法に規定されていました。ここには、質問、帳簿書類その他の物件を検査することができる旨が規 定されていましたが、確かに預りに関しての規定はどこにもありません。実務では、“検査”の言葉の中に含まれていると解釈され運用されていたわけですが、 一部の納税者から協力が得られず、どうしても拒否されている現状がありました。そのため、今回の改正により各税法に規定されていた質問検査権を国税通則法 に集約した上で、次の文言が追加されています。
『帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができる』
さらに、提出を求めることができると同時に、留め置くことができる規定も追加されています。これは従来規定になかった項目でありつつも、実務では 双方協力の下でやっていました。しかし、ここでも上記同様の現状があり、今回の改正で具体的な手続きとともに規定化されました。
『国税の調査について、必要がある時は、調査において提出された物件を留め置くことができる』
さて、この規定では“できる”とあるため、拒否することも“できる”とお考えの方もいらっしゃることでしょう。しかし、これらの改正と同時に、正 当な理由なく提示・提出を拒んだりした場合には罰則(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)が科されることがある、と規定化されているのです。
つまり、正当な理由なく拒否できない、ということです。
そこで、医師、弁護士などのような職業の守秘義務が課されている場合あるいは宗教法人のように個人の信教に関する情報を保有している場合に業務上の秘密に関する帳簿書類の提示若しくは提出を求められたときには、拒否することができる正当な理由に該当するのでしょうか。
これに関しては、国税庁から公表されている「税務調査手続きに関するFAQ(一般納税者向け」には、次のように回答がなされています。
調査担当者は、調査について必要があると判断した場合には、業務上の秘密に関する帳簿書類等であっても、納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て、そのような帳簿書類等を提示・提出いただく場合があります。
いずれの場合においても、調査のために必要な範囲でお願いしているものであり、法令上認められた質問検査権等の範囲に含まれるものです。調査担当者には調査を通じて知った秘密を漏らしてはならない義務が課されていますので、調査へのご協力をお願いします。
つまり、これを以てして正当な理由に該当しない、ということです。
ただし、言われたものを何でも全て提示・提出しなければならない、というわけではないでしょう。求められた際には、なぜ必要なのか、どの部分が必要なのかをきちんと説明を受け、必要最小限の部分だけを提示・提出すればよいのです。
なお、今回の改正により、帳簿書類等を留め置く場合の「預かり証」の交付時に預かり証の受領に関する物件の提出者の署名押印が必要になります。基本は申告者本人が署名押印しますが、申告者本人の承認があれば申告者以外の者でも署名押印が可能です。